なぜ異常判定にAI(機械学習)を使わないのか

異常判定と聞くと、「AI(機械学習)を使うべきでは?」と言われることがあります。少数の設備を精密に診断するのであれば、それも一つの有効な手法です。ただし、数百台〜数千台の設備を同時に管理する現場では、必ずしも最適な選択とは限りません。

大規模運用で重要なのは「賢さ」より「使いやすさ」、大量の設備を継続的に管理する場合、現場で本当に重要になるのは次の点です。

  • 判定根拠が説明できること
  • 間違っていそうなら、すぐに修正できること
  • 担当者が変わっても理解・運用できること

この観点で見ると、機械学習系の異常判定には次の課題があります。

  • 判定根拠がブラックボックス化しやすい
  • センサごとに学習や再学習が必要
  • 感度調整が直感的にできない

結果として、「なぜ異常なのか説明できない」状態が生まれやすくなります。

2倍・4倍の閾値は「古い」のではなく「生き残ってきた」

振動管理の世界では、

  • 警報値:正常時の2〜3倍
  • 危険値:そのさらに2倍(4〜6倍)

という 倍率による閾値管理が40年以上前から使われ続けてきました。これは偶然ではありません。

多くの設備、多くの業種、多くの現場で試行錯誤され、「現場で使える方法として残った」手法だからです。この手法が今も有効な理由倍率閾値の良さは、次の点にあります。

  • 計算が非常にシンプル
  • 初期設定に時間がかからない
  • グラフを見れば「この閾値は妥当かどうか」を人が直感的に判断できる

大量のセンサを扱う現場では、人が見て納得できること自体が重要な性能になります。高度な計算よりも、「これはおかしい」「これは問題なさそうだ」と共通認識を作れることが、運用を支えます。

本当に大切なのは「調整できる余地」異常判定で現場を疲弊させるのは、異常の見逃しそれ以上に、誤報の多発です。

倍率による閾値であれば、運転条件を考慮しながらグラフを見て少しずつ調整することが容易にできます。この「人が関与できる余地」こそが、長く使い続けられる条件だと感じています。

AIを否定しているわけではありませんしAIを使わない、という話ではありません。

大量設備の常時監視 →説明できて調整しやすい閾値判定

本当に異常かどうか確認したい場面 →FFTなどの詳細解析を追加

この役割分担が、現場では最も回りやすいと考えています。異常判定は、高度であることよりも、続けられることが重要です。40年以上生き残ってきた手法には、それだけの理由があります。あなたの現場で必要なのは、「最先端の判定」でしょうか。それとも、現場で説明でき、調整でき、責任を持てる判定でしょうか。

江本技研株式会社 江本 二郎
なぜ異常判定にAI(機械学習)を使わないのか
トップへ戻る